ネパールの教育

ラリグランスクラブでもお馴染みのスマナ・シュレスタさんにネパールの教育事情についてお尋ねしました。

彼女は今年3月に京都ノートルダム女子大学を優秀な成績で卒業された後、広島大学・国際協力研究科の大学院試験に見事合格されて、現在教育文化専攻の勉学に励んでおられます。

スマナ・シュレスタさんのご家庭はノートルダムスクールのあるバンディプールにあり、ごく普通のつましいお暮らしをされていますが、ご両親は教育の重要性をつよく感じておられ四人の子ども達には、立派な教育を受けさせるようこれまで頑張って来られました。
二年前学校閉鎖を強いられたノートルダムスクールからやむなくカトマンズの学校に転校した弟のシャンカール君は今年SLCで高得点を得St.XavierCollegeで学ぶ事ができるようになりました。
又。お兄様のオムさんはこの度「ゴルカ ダクシン バフ」という名誉ある賞を王様より授与されました。この賞は今年セントザビエルでお会いしたドネリー神父様も受けられて(セントザビエルでは歴史がはじまって四人目だそうです)が、普通はドネリー神父のように長年の仕事の功績がを認められてあたえられるものでオムさんのように20代で受けるのはとても珍しいそうです。心よりお祝い申し上げます。

コネや汚職がはびこる国・政情不安定なネパールでもこのように真面目に努力し生活している人々が国から認められるようになったことは喜ばしいことです。

五十嵐・・
スマナさん。大学院への進学おめでとうございます。その上シャンカール君の進学とオムお兄様の受賞。素晴らしいですね。ご兄弟みんなの努力あってのことですが、教育に熱心なご両親の理解があってのことこそと思われます。
今日はネパールの教育システムについて色々お話を聞かせてください。

スマナ・・
はい。私もネパールの教育の有り方については大変関心のあることですのでお話させて頂きます。
ネパールの一般大衆は非常に不利な立場に置かれており、その識字率は世界最低国の一つです。
ネパールの教育制度が遅れているのは、まず第一に過去の政治制度に責任があります。1949年まで存在していたラナ政権は、大衆が教育を受けることを望まなかったのです。なぜなら、教育を受けて政治に目覚めた市民が、指導者の圧制に反対することを恐れていたからです。しかし、1951年にラナ政権が打倒された後、大衆への教育の道が開かれました。ですから教育の歴史も55年ぐらいしか経っていません。

五十嵐・・
そういえば二年前にセントザビエル校を訪れた時、創立50周年を迎えたと聞きました。セントザビエル校はその時期に創立されたんですね。
それで教育システムはどのようになっているのですか?

スマナ・・
ネパールの教育制度は小学校(Primary School)5年、中学校(Lower Secondary School)3年と高校(Secondary School)2年です。
学校の10年生の時にSLC(School Leaving Certificate)と呼ばれる国家試験があります。この成績によってある程度進路が決まります。
10年生の次は2年間のジュニアカレッジその次が大学です。一般的な大学は3年間で、分野によっては4年間から6年間まであります。例えば、農学部や工学部が4年間で獣医や医学が5年から6年間です。

五十嵐・・
SLCについてもう少し詳しく説明して下さい。

スマナ・・
SLCはネパールでは将来への第一歩の道と言われています。生徒達はこれをかなり難しい試験だと認識しています。この試験を良い成績で合格できると自分が将来何になりたいのかそれへの道を選ぶことができます。
例えば、将来お医者さんやエンジニアになりたい人は60%以上の成績をもらったらジュニア・カレジでscienceを選ぶことができます。優先順序は70%,80%をもらっている人に行きますが。
ネパールでは多くの学生たちが特に優秀な生徒達がscienceを選ぶのがほとんどで親達もscienceを勉強させて将来自分の息子または娘が医者さんやエンジニアになるのを夢見ていると思います。この風潮は昔からずっと同じす。しかし、私はこれは良くないと思っています。なぜなら、良い成績で卒業する生徒達は理科だけを取って他の大事な分野である教育学や他の分野を軽視することになり良くないと思います。
国の発展を考えるためには一つだけの分野だけではなく、発展、開発につながる様々な分野においても優秀な人々が必要と思います。

五十嵐
小学校に入学するのは何歳からでしょう?

スマナ・・
小学校は6歳から入りますがその前にNursery School, Lower K.G.とUpper K.G といった幼稚園(これは私立学校にだけに)があります。
ネパールでは国立と私立学校があって私立学校ではネパール語の授業以外の授業は全て英語で行われます。公立学校では英語の授業以外の授業がネパール語で行われます。

五十嵐・・
そう言えばノートルダムスクールを訪問した時、小学生なのに英語のレベルが高くて驚きました。でも公立校と私学では格差が広がる一方ですねえ。SLCは公立出の生徒と私学出の生徒が同じ試験を受けるのでしょう?

スマナ・・
そうです。ですから教育に熱心な親は無理をしても子どもを私学に入れたがります。

五十嵐・・
公立校を訪ねた時、クラスに年齢がマチマチな生徒がいましたがどうしてでしょう?

スマナ・・
ネパールでは毎年進級試験を受けないと次の学年に進むことが出来ません。したがって試験を合格出来なくて同じ学年を何回も繰り返す生徒達もいます。これは日本の学校制度との相違点です。
また小学校から中学校までは飛び級もあります。でもたとえ飛び級で早く10年生を終えてもSLCを受ける資格は17歳です。一般的にネパールの人々はジュニアカレッジまで行きますが今は大学まで行く人々が増えています。しかし大学院や博士コースまで行く人々はまだ少ないです。

五十嵐・・
進学テストは国が作るのですか?それとも個々の学校が作るのですか?

スマナ・・
個々の学校が作ります。学校によって質問様式が違いますよ。しかしSLCの試験は私立学校であれ公立学校であれ、全国共通です。

五十嵐・・
義務教育は何年まででしょうか?無料ですか?

スマナ・・
ネパールでは小学校までの5年間が義務教育です。公立学校の授業料は5年生まで無料だと思います。でも本や勉強に必要なものは無料ではありませんから経済的な理由をはじめ様々な理由で小学校も行かない又は行けない子供達がまだたくさんいます。また中退する子供達もたくさんいます。それの理由は貧困、児童労、家族の事情などと考えられています。

五十嵐・・
児童労?

スマナ・・
児童労というのは「働く子供」のことです。家庭の事情で小さいときから働かなければならない子供達がたくさんいます。かれらは勉強したいのに仕事をしなければいけないので勉強ができなくなります。このことの意味します。
ネパールでは学校に行けない子供達のためにノン・フォーマル教育の機会を始めています。その中では「チェリベティー」というプロ−グラムがあります。チェリベティーの意味は若い女の子の意味でこれは学校に行けない女の子を中心に女性のための6カ月間の授業です。今は男の子たちのためにもこのようなプロ−グラムが出来ているようです。

五十嵐・・
チェリベティ―というのはパブリックの施設ですか?無料でしょうね?集中的に6ヶ月するのですか?それとも6ヶ月のカリキュラムを長くかかって終了してもいいのですか?  大人のためのおなじようなシステムはないのですか? 

スマナ・・
チェリベティープログラムはMinistry of Education(教育省) のプログラムです。 これは集中的に六ヶ月するのです。これを卒業した女の子は小学校3年生と同じレベルだと考えられています。それは読み書きや簡単な計算などができるようになるからかも知れません。大人のためにもこのようなプログラムがありますよ。
2001年の国勢調査によるとネパールの識字率は59.6%になりました。女性の識字率は42.5%で男性のそれは65.1%です。これは前に比べてかなりよくなっていますがまだ41.4%の人々が無学であるということは注目すべきことです。

五十嵐・・
政府も識字率を上げるために方策を講じてはいるのですね。

スマナ・・
この21世紀ではネパールはどの方向に行くのか、それが大きな課題かも知れません。今こそネパールが教育に大きな力を入れなければならないと思います。ネパールの識字率が100%になるまではまだ時間がかかりますが、今ネパールが抱えている貧困問題、環境問題、健康問題といった様々な問題を解決するためには教育が大きなニーズになっているのではないだろうかと思います。 

五十嵐・・
そうですね。私も国の発展のためには教育が1番大切だと思います。でも公立校と私学校のレベルに大きな差があるのは問題ですね。
その上マオイストからの強制で今年に入ってからも何度も学校閉鎖があったと聞きました。彼等が国を愁うるならば学校閉鎖などするべきではないですね。
スマナさんは幸いにもこの平和な日本で学ぶ機会を得ているのですから、しっかり勉強をしてネパールの為に役に立つ人になってくださいね。
その為に私達ラリグランスクラブの者は応援しています。
今日は有意義で楽しいお話を有難うございました。

スマナ・・
私の方こそ有難うございました。

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