街頭イベント


カトマンズ在住の田中雅子さんは個人通信「カトマンズ便り」を私の所にも送ってくださっています。

この度の便りにはとても興味をそそられましたので、その中の一部を田中さんの了承を得て、みんなに紹介いたします。

2年前にネパールに行った時古都バクタプールの広場で街頭劇をしているグループに出会いました。
内容は汚職を批判する劇でした。(通信11号参照)
ネパールでは識字率が低いので市民にアピールする時は新聞やチラシでするのではなく街頭で劇をする習慣(文化)があるということを知り感銘をうけました。

現在は2月の政変の後報道規制がしかれ街頭劇などとんでもないことと勝手に思っていたのですが田中さんのレポートで街頭劇が健在であることを知りました。

日本では今まさに選挙戦たけなわ。車から演説がけたたましく響いてきますが、市民広場などでタレントによる寸劇などすればいいのに見たことも聞いた事もありません。私が知らないだけなのかしら?禁止されているのかしら?

考えさせられる事の多い深いレポートです。

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カトマンズ便り10「市民」 2005825日 在ネパール カトマンズ 田中雅子

■イベント

カトマンズでは、7月の後半から「市民団体」による街頭集会が開かれています。中心になっているのは、ジャーナリスト、人権活動家、弁護士、コラムニスト、アーティストなどで、人通りの多い広場で、毎回場所を変えながら3000名くらいの聴衆を前にスピーチや、唄、パフォーマンスを通じて紛争解決と共和制を求めるアピールをしています。

私も先週カトマンズの旧王宮前広場での集会に行きました。過去2回の様子をテレビで見て、これまでのデモとは違い、政党政治家が主役の演説中心ではなく、主張はあるものの楽しく落ち着いた雰囲気が伝わってきたからです。ネパールの会合は開始が予定より遅れることが多いので、少し遅れて行ったところ、すでに広場の寺院の石段は聴衆でいっぱいでした。定刻どおり始まったらしく、期待していた女性アーティストたちによるパフォーマンスは終わってしまっていました。

イベントの一部始終を撮っていた映像作家の友人に後日ビデオを見せてもらったところ、彼女たちは口を布でふさがれた白装束で現れ、レンガ色のステージの上に横たわった若者たちを白チョークで形取り、数分後にステージが白い人型(死体を象徴)でいっぱいになるという無言のパフォーマンスをしたようです。

会場になっている古い寺院の一角には風刺漫画を大きく引き伸ばした横断幕が舞い、詩の朗読、唄、コントなど出し物が続きます。私のネパール語力ではそのすべては理解できませんから、私はステージと会場の両方に目をやりながら、聴衆が楽しそうにしている様子を見て、その反応をうかがい知るのがやっとでした。それでも、たまには私にもよくわかるスピーチがあり、隣に座っている人とうなずきあったり、拍手をして楽しみました。

こういうイベントは「インテリの遊びにすぎない」という批判もあります。会場でたくさんの知り合いに会いましたが、ジャーナリスト、漫画家、大学教員、編集者の知人で、私が借家人の調査で関っている女性グループのメンバーや近所の仕立屋さんではありません。しかし、3000人以上もいた聴衆のすべてが「インテリ」かと言うとそうでもなく、普段は路上で焼きとうもろこしを売っている女性もいましたし、たまたま通りかかった風船売りのおじさんも品物を頭から下ろし、聴衆の一人としてじっと座っていました。夫は軍人だという子どもづれの女性もいました。ステージに上がって目立っていたのは「インテリ」だったことは否定しませんが、特定のスポンサーのいないこのイベントに会場で寄付をしていたのは「その他大勢」の人たちだったと思います。

このイベントの中で姿を見かけなかったのは、私と同業者でもあるNGO関係者です。会場の隅々まで見渡したわけではないので、どこかの一角に集まっていたのかもしれませんが、ざっと見渡してもNGO関係の知り合いはふたりしか見かけませんでした。就業時間中だから行けないとか、単純に忙しいから、という理由もあるでしょうが、NGO関係者がこの種のイベントに関ろうとしないのは「政治的な行動をとると、当局から目をつけられ活動がしづらくなったり、その団体を支援している外国の援助機関からの資金援助がこなくなるのではないか」という不安があるからだと思います。

イベントの途中、裏方をしていた知人の女性がステージに立ち「今日のこのイベントのドナーは誰だか知っていますか?会場で寄付をくれたみなさんですよ」というと大きな拍手が起こりました。ネパールでは「ドナー」イコール「外国の援助団体」という理解が一般的になっていますが、このイベントが外国からの援助資金ではなく、その場にいた人たちによって支えられていることを誇りに思ったのでしょう。

普段NGOは草の根レベルでの市民社会の強化を謳い文句にしていますが、政変後の混乱の中でも立場を明らかにせず、沈黙を守っているのは地元の団体も外国の団体も含めNGO業界です。この流れの中でのNGO業界の孤立は、次の時代がきたときにNGOがその拠り所であるべき市民のサポートを失う事態を招きそうな気がします。

おしらせ

ネパール情勢についてはネパール・ピース・ネットのホームページから「NPN Newsバックナンバー」http://npnet.exblog.jp/i18)をご覧ください。

紛争の実態をお伝えするドキュメンタリービデオ『殺戮の台地−The Killing Terraces』と『戦火にさらされる学校−Schools in the Crossfire』の日本語字幕版も販売中。私が字幕作成しました!ぜひご覧ください。

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